研究概要 |
加熱肉食品中に多く含まれ、ヒトが日常に摂取している変異原・がん原物質である2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine(PhIP)を雄ラットに投与すると高率に大腸がん及び前立腺がんを、雌ラットでは乳がんが誘発される。PhIPで誘発されたラット大腸がんおよびPhIP投与後60週前後において観察されたaberrant crypt foci(ACF)における大腸発がん関連遺伝子の変異について解析した。その結果、殆ど全ての大腸がんにおいてβ-catenin蛋白質の細胞質内或いは核内への蓄積が免疫組織染色により確認できた。しかしながら、Apc遺伝子或いはβ-catenin遺伝子の変異をみとめたのは18例中8例のみであった。残りの約半数の大腸がんにおいては、Wntシグナル系に関与するApcあるいはβ-catenin以外の遺伝子に変異が存在する可能性が考えられる為、この点を明らかにする必要がある。また、担がんラットから得られたACFの遺伝子解析では、β-cateninのエクソン3のcodon36におけるHis(CAC)からAsn(AAC)への変異を認めた1例を除き、Apcおよびβ-catenin遺伝子の変異は認められなかった。このことからACFの発生には他の遺伝子変異が関与している可能性、或いは、大腸がんと併存する後期のACFを用いた解析では、腫瘍化に必要な遺伝子変異を伴わなかったACFのみを選択的に観察している2つの可能性が考えられる。大腸発がん過程におけるACFの生物学的意義を明らかにするために、今後、ACFにおける遺伝子変異の経時的な解析が必要である。
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