目的:本年度は、9p21部からのSTSを用いたSTS-PCRにより、各種癌細胞株とATL患者白血病細胞における欠失地図を作成し、更に培養細胞系を用いて選択的化学療法の有効性を検討した。方法:STS-PCRには9p21部から単離したP1およびphageクローンの塩基配列を基に作製したプライマーを用い、癌細胞株とATL細胞から精製したDNAを鋳型とした。選択的化学療法にはMTAP陽性と陰性癌細胞を用い、プリン代謝拮抗剤およびメチオニン欠乏に対する感受性の違いを観察した。結果:1.癌細胞株とATL細胞では9p21欠失の範囲は細胞によって異なり、アルファおよびベータ・インターフェロン遺伝子を含む広範囲の欠失からp16欠失のみという小さな欠失まで存在した。重要な点は、欠失の大小に拘わらず、p16は常に欠失しており、9p21欠失のターゲットはp16であることを示唆する結果であった。2.プリン代謝拮抗剤であるDideazatetrahydrofolata(DDATHF)によりMTAP陽性および陰性細胞の発育はともに阻害されたが、MTAPの基質であるMTA(Methylthioadenosine)の併用により、MTAP陽性細胞はrescueされた。一方、陰性細胞の発育はMTAを併用しても阻害されたままであった。3.メチオニン欠乏培地で培養されたMTAP陽性および陰性細胞の発育は阻害されたが、MTAの併用により陽性細胞のみrescueされた。4.MTAP酵素欠損を標的にした選択的化学療法の可能性を示唆する結果を得た。5.上記の結果は、9p21欠失が細胞の癌化と選択的化学療法の標的という二つの側面を有することを示している。
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