マウス・メラノーマ細胞株B16の亜株のうち、実験的転移能と自然転移能のいずれをも有するBL6細胞と、実験的転移能は有するが自然転移能は有しないF10細胞との間でcDNAライフラリーのサブトラクションを行って、自然転移能獲得に正の働きをしている遺伝子群の単離を試みた。BL6細胞において高発現する遺伝子を現在までに20数種単離した。そのうち次の遺伝子について解析を進めている。コネキシン26、プロテイン・フォスファターゼ2Aの制御サブユニット、Phakinin(中間径フィラメント)、アセチルCoAトランスポーター、b-Myc、I-κbに結合する酵母遺伝子のマウス・ホモローグ、Zn・フィンガー・モチーフを持つ新規遺伝子。 現在までの成果を以下に列挙する。 1) コネキシンは自然転移能獲得に正の働きをしうる。この機能はコネキシンのサブタイプによる特異性があり、正常細胞(血管内皮細胞等)とのheterotypicなギャップ・ジャンクション形成能に依存するものと思われた。 2) ヒト肺癌症例のスクリーニングで、転移ステージとコネキシン遺伝子発現との間に正の相関が見い出された。 3) プロテイン・フォスファターゼ2A制御サブユニットの発現亢進は、BL6細胞のゲノム上第一イントロンにレトロトランスポゾンの挿入があるからで、そのアリルに由来する翻訳産物はN末に約70アミノ酸の欠失を生じていた。 4) このフォスファターゼは焦点接着構成蛋白(インテグリンやパキシリン)と結合した。 5) このフォスファターゼは細胞外基質に対するF10及びBL6細胞のspreading、migration、invasion能の評価において抑制性に機能した。即ち、細胞外基質-インテグリ系を介して細胞内に入るシグナルに対してフォスファターゼが負の制御を行っているものと考えられた。
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