研究課題
癌の治療法の一つとして遺伝子治療が検討され始めているが、治療用ベクターとして主にウイルスを用いているにも関わらずウイルス学的な側面からの検討は始まったばかりである。本研究では本邦独自のウイルス学的基礎研究を基盤とした遺伝子治療ベクターの開発を推進している。本年度の成果は以下の通りである。I) 癌細胞への標的化を2つの方向から検討を行った。1) Cre/loxP系による発現制御系と癌特異的プロモーターを併用した自殺遺伝子導入法を検討し、LacZ遺伝子を用いた予備的な検討により癌細胞特異的な高度の発現を認めた。HSV-TK遺伝子を用いた検討では発現量の増強はわずかであったが、癌細胞への特異性は示された。2) 癌特異的プロモーターからretrovirus receptorを発現するアデノウイルスベクターを用いて癌細胞を修飾し、癌細胞特異的にレトロウイルスベクターで遺伝子導入を行う方法を確立した。II)長期持続型ベクターを目指してEBウイルスのoriPとEBNA-1強発現ベクターをHVJ-liposomeへ封入し、4週後での発現の増強を確認した。III) bicistronic retrovirus vectorを用いた血液幹細胞への遺伝子導入を、NOD-SCIDマウスあるいはコモンマーモセットを用いて検討した結果、造血前駆細胞への遺伝子導入が確認された。IV) 動物胆癌モデルの検討は、アンチセンスK-ras発現組換えアデノウイルスを用いて膵癌への治療効果の検討を行い、腹膜播種や肝腫瘍形成を抑制することを明らかとした。V)AAVベクターに関しては作製法・導入法の改良を目指してRepの弱細胞毒性ミュータントの検討や癌細胞での発現がγ線照射により増強することを示した。今後もウイルス学的な基礎研究に基づいたベクター開発と動物モデルによる治療効果の検討を行い、癌遺伝子治療法の確立を目指していく。
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