アポトーシスは、多細胞生物、特に高等動物において、発生時の形態形成や生体のホメオスタシスの維持に必要不可欠の現象であり、がんの発生やがん細胞の除去、自己免疫疾患の発症や自己反応性免疫担当細胞の除去などにおいて重要な働きをしている。我々が発見したアポトーシス誘導シグナルを伝達する細胞表層レセプター分子Fasは、自己反応性免疫担当細胞の除去に関与していると同時に、細胞障害性T細胞によるがん細胞の除去においても機能している。細胞表層レセプター分子Fasを介するアポトーシス誘導シグナルの分子機構を明らかにすることによって、アポトーシスを回避して細胞が癌化する分子機構を明らかにし、ガン細胞発生の抑制やがん細胞の除去にたいする新しい視点を提供することを目的として研究を行い、下記の諸点を明らかにした。 1. RASが、がん化していない線維芽細胞において、Fasを介するアポトーシス誘導シグナルを抑制することを明らかにし、これがRASの下流で活性化するマップキナーゼの作用によることを明らかにした。 2. Fasを介するアポトーシス実行時に活性化されるプロテインキナーゼがプロテインキナーゼMSTがカスパーゼで切断されて活性化したものであることを明らかにし、MSTの活性化によって細胞質の凝集というアポトーシスに伴う諸現象の一つが実行されることを示した。 3. 新たに作成したカスパーゼ8の遺伝子破壊マウス由来の線維芽細胞を用いることにより、Fasを介するアポトーシス誘導シグナルでは、カスパーゼ8の活性化が必要不可欠であることを証明した。
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