研究概要 |
我々は、その基盤技術であるオゾン酸化を利用する合成手法を駆使して、さまざまな骨格をもつ有機過酸化物群を合成し、これまでは省みられることがなかった過酸化物の抗がん作用について、金沢大学教授佐々木琢磨先生の研究グループにより検討していただいた。その結果、アルケンのオゾン酸化で容易に得られる1,2,4-トリオキソラン、またそれに由来する1,2,4-ジオキサゾリジンが、顕著な新生血管産生阻害作用を示すという興味ある結果を得ている。すなわち、これらの化合物について、線維肉腫HT-1080細胞を用いる産生阻害効果を検討した結果、有望であるとの評価を得ている。特に1,2,4-トリオキソラン誘導体の場合には、極めて低濃度でも効果があることが注目される。これらの化合物は、受精鶏卵漿尿膜法によるin vivo試験でも効果があることが確かめられている(投与量が40μg/eggの場合、血管新生阻害率はそれぞれ75%と56%であった)。 多様な骨格を持つ1,2,4-トリオキソランを合成するためには、新しい合成法の開発も重要である。我々はこの試みにも取り掛かっており、その予備的成果として、9,10-ジシアノアントラセンを増感剤とする光酸化が、極めて有効であることを見い出した。 また、これら化合物の薬理効果発現の理由を明らかにする目的で、1,2,4-トリオキソラシのFe(II)よる一電子還元反応を検討したが、興味あることに、酸素-酸素結合の均一開裂に続いて、炭素-炭素結合のβ-開裂が起こり、生体内での作用が注目されている炭素ラジカルが効率よく生成することを確認している。
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