神経可塑性の形成には、神経活動に伴う中枢神経系の構造的・機能的な変化が重要と考えられており、最近の研究で神経活動に伴う転写因子や情報伝達に関与する蛋白質の迅速な発現誘導が神経可塑性の形成に重要な役割を持つことが指摘されている。このような物質の中にプロスタノイドの生合成における律速酵素であるサイクロオキシゲナーゼが含まれる。この結果は、プロスタノイドが神経可塑性の形成に関与していることを示唆している。プロスタノイドはアラキドン酸の代謝産物であり、生体内において非常に多彩な作用を示すが、その作用は標的細胞表面にある各々のプロスタノイドに特異的な受容体を介して発揮されている。本研究では、プロスタノイド受容体欠損マウスを用いて、各々のプロスタノイドが神経可塑性の形成において果たす役割とその分子機構の解明を目的としている。昨年度は、発熱機構について解析を行った。まず、PGE2を脳室内に投与すると、EP1、EP2、EP4受容体欠損マウスでは各々野性型マウスと同様の一過性の発熱反応が出現した。しかし、EP3受容体欠損マウスでは全く発熱反応が認められなかった。また、内因性発熱物質であるIL-1βによる発熱反応は、EP3受容体欠損マウスにおいて特異的に消失していた。ついで、LPSによる発熱反応を解析した。LPSを野性型マウスに投与すると、持続性の発熱が出現し、EPl受容体欠損マウスにおいても同様の発熱反応が観察された。しかし、EP3受容体欠損マウスでは全く発熱反応が認められなかった。以上の結果、外因性・内因性発熱物質による発熱にはEP3受容体が必須であり、PGE2がその最終メディエーターであることを明らかにした。
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