研究概要 |
我々は、アデノシンが神経伝達に対して抑制作用とともに興奮作用ももつこと、そしてこの興奮性作用が高頻度刺激で惹起される長期増強(LTP)現象に類似することを報告してきた。本研究においてはモルモット、ラット海馬、上丘の切片およびラットin vivo上丘を用い、アデノシンによるLTP様現象の発現機構に焦点をしぼり、その興奮性作用に(1)介在ニューロンとしてのGABA作動系の脱抑制が関与しているかどうか、(2)LTPと同様にNMDA受容体が関与しているか、(3)興奮の維持機構に蛋白キナーゼ系が関与しているか、(4)アデノシンの受容体が関与していればどのような受容体か、を明らかにしようとした。 〔GABA介在ニューロンの関与〕 GABA_A受容体アンタゴニストのピクロトキシンとアデノシンの相互作用、およびこれら二つの薬物に対する蛋白キナーゼ阻害薬の作用から、アデノシンによる興奮作用はGF109203の前処置で抑制されるが、ピクロトキシンでの興奮作用は抑制されないことから、アデノシンによるLTP様の興奮作用はGABA作動性回路の抑制によるものでなく、アデノシンの直接作用であることが明らかとなった。 〔NMDAアンタゴニスト、APV、MK801の効果〕 海馬、上丘で,APV(50μM)、MK801(1μM)の前処置でテタヌスによるLTP発現は抑制されるが、アデノシンの興奮作用は抑制されなかった。 〔蛋白キナーゼの関与〕 今回蛋白キナーゼCに特異的なGF109203の前処置で、アデノシンの興奮性効果が発現しなくなることから、この興奮性維持過程にPKCが関与している可能性が示された。 上丘切片およびin vivoラットの上丘におけるアデノシンの興奮作用について、A1およびA2アゴニスト、さらにA1、A2アンタゴニストを用いて検討した結果、興奮作用がA2受容体を介してなされている可能性が示された。 これらのことから海馬、上丘でみられるアデノシンのLTP様現象は、GABA作動性回路の抑制による結果でなく、またNMDAの活性化とは関係なく、アデノシンの直接作用であり、今後精細な研究は必要であるがおそらくアデノシンA2受容体を活性化し、何らかの経路を介してLTP維持機構と共通性をもったPKC系に収斂してLTP様現象を惹起する可能性が示された。
|