一般に細胞を構成する分子は細胞内に均一に分布するものではなく、偏在を示す。こうした極性を持った分子の分布こそが細胞に機能的特性を与える。細胞極性は進化の過程を経ても保存されている重要な生命機構であり、たとえば原始的な生物、特に酵母ではその遺伝学的手法の用い易さから細胞極性形成に関与する遺伝子がいろいろ同定されている。これら遺伝子のうち数個については既に対応する哺乳動物相同遺伝子が同定されており、培養細胞を用いた系において細胞極性形成に関与することが明らかにされつつある。生体を構成する細胞のうち、最も顕著な分子的および機能的極性を示すものが神経細胞であり、本研究ではショウジョウバエで細胞極性に関わることが明らかとされている遺伝子の中枢神経系における相同遺伝子を同定し、遺伝子過剰発現または発現抑制によるグルタミン酸受容体の局在変化と神経情報伝達機構に対する効果を調べ、神経可塑性の機能解析を行おうとした。 単離の対象とした遺伝子はGTP結合蛋白質やMAPカイネース系の上流に位置するか、または細胞骨格形成に関与し、細胞極性に対する直接的な関連が明らかとされているショウジョウバエの遺伝子の哺乳動物相同遺伝子である。PCRを用いて目的とする遺伝子の断片を単離し、次に得られたcDNAを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングし全長のcDNAの単離を試みた。現在のところ5種類の候補遺伝子の分離に成功し、そのうち2種類(MK1とMK2)について現在解析を進めているところである。
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