発生時、嗅球の僧帽細胞の軸索は終脳外側表面を選択的に伸長し、嗅索を形成する。我々は発生時の終脳を抗原にしてモノクローナル抗体を作製し、非常に興味深い結合パターンを示すモノクローナル抗体lotlを得た。この抗体の認識する細胞(lot細胞)は終脳の中で最も初期に分化する神経細胞で、僧帽細胞の軸索が伸長し始めるよりも前に、将来嗅索が形成される位置に細胞の帯を形成して配列する。伸長し始めた最初の僧帽細胞の軸索は、このlot細胞の帯の上を選択的に伸長し、嗅索を形成する。このような分布パターンからlot細胞が僧帽細胞軸索をガイドしているのではないかと考え、lot細胞の破壊を試みた。昨年度の研究で、lot細胞は6-hydroxydopamine(6-OHDA)に感受性があり、この薬剤で短時間処理することで選択的に細胞死を起こすことを見いだした。そこで、6-OHDAを浸したアガロースゲル小片を、まだ嗅球から僧帽細胞の軸索が伸長し始めていないステージの終脳表層にのせて短時間局所的に作用させた。この処理後、lot細胞の90%以上は速やかに死滅したが、lot細胞以外の神経細胞や神経上皮細胞が影響を受けることはなかった。6-OHDA処理した終脳を2日間器官培養して、僧帽細胞の軸索伸長の様子を観察したところ、これらの軸索はlot細胞が生存している領域は正常に伸長するが、lot細胞の欠損した領域にさしかかると伸長を止めることがわかった。少数ではあるが比較的長く伸長した僧帽細胞の軸索は必ず生き残ったlot細胞と接触を保っており、lot細胞は僧帽細胞の軸索伸長のため★不可欠であると思われた。以上の結果はlot細胞が僧帽細胞軸索をガイドする細胞であるという仮説を支持する。
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