大腸菌イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素を出発材料として、昨年度337番目の残基が変異している酵素が二つ得られていた。これらのうち、337番目のグリシンがトリプトファンに変換した変異型酵素は熱安定性が上昇していた。この部位はループ中にあり、主鎖の動き易さが減少して耐熱性が上昇している可能性が考えられた。またこの部位のアミノ酸がリジンに変わっている変異型酵素の耐熱性は野生型とほとんど同じであったが、活性が上昇していた。すなわち、同じ部位のアミノ酸残基の変異株が2種類、進化的酵素選択系によって単離されたがその酵素の特性変化は異なっていた。 動力学専用コンピュター(MDエンジン)を用いて好熱菌イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の熱変性過程のシミュレーションを行った。1500Kでの計算を60ps行った。その過程でタンパク質の構造は次第に崩れて変性していく過程が観察された。変性によって、分子の慣性半径は次第に大きくなっていった。この酵素は2つの構造上のドメイン二つからなるサブユニットの二量体である。一つのサブユニットの二つのドメインの重心間距離は変性とともに大きくなったが、二つのサブユニットを結合されるドメイン間の距離は変化しなかった。すなわち、二量体構造を保ったままで二つのドメインが分離する様に変性する過程が観察された。 昨年度、好熱菌の耐熱性酵素を出発材料として、常温での酵素活性が上昇した酵素が複数得られた。これらの酵素の活性の特性を詳しく検討した。これらの酵素のうちいくつかの酵素では酵素の触媒定数(kcat)が上昇することによって反応特性が上昇していた。一方他のいくつかの酵素では、ミカエリス定数が低下することによって反応特性が上昇していた。すなわち少なくとも二つの方法によって酵素反応特性を上昇させた酵素が進化的に分離されたことがわかった。
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