これまで、時間分解ホールバーニング法を用いて調べてきた蛋白質構造ダイナミクスに対する理解をより深めるため、構造揺らぎに対する溶媒の効果について重点的に調べた。そのために、これまでも用いてきた試料であう亜鉛置換ミオグロビン(ZnMb)溶液において、溶媒条件を系統的に変えたときに構造揺らぎがどのように変化するかを詳細に調べた。実験結果を解析することにより以下のような結論が得られた。 全ての溶媒条件のZnMb試料において、蛋白質の構造揺らぎによるホールスペクトルのピーク位置の時間発展は、著しく単一指数関数的な振る舞いからかけ離れた非指数関数的振る舞いを示した。近似的に、その時間発展は拡張指数関数(exp[-(t/T)^β]、β=0.26で表された。β=0.26という値は通常のガラス形成液体等と比べても非常に小さく、蛋白質内の揺らぎの時間スケールの幅広い分布を反映しているものと考えている。上述のような振る舞いを示さない唯一の例外は、固体フィルムにznMbをドーブした試料であった。この場合、調べられた全ての温度でホールスペクトルの時間変化は見られなかった。蛋白質を取り囲む周りの環境が固体になった場合には、蛋白質は揺らぐことができないことを非常に鮮明に示す結果である。 また、遺伝子操作によりヒスチジン64をロイシンに置換した変異体試料を用いて実験行ったところ、野生種で見られるホールスペクトルの時間変化が明らかに抑えられる傾向があることが分かった。このことより、野生種で見られているスペクトルの時間変化は、ヒスチジン64の揺らぎによるものである可能性が示唆される。現在詳しい解析が進行中である。
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