研究課題
がん遺伝子産物c-Myb蛋白質のDNA結合ドメインは3つの相同な繰り返し構造(RLR2、R3)からなる。これらのうち、R2の疎水性コアにはcavityが存在し、不安定であるが、このことが転写活性などの機能に重要な役割を果たしている。本研究では、R2のcavity近傍の103位のValを各種の天然及び非天然アミノ酸に系統的に置換した兇変異体を化学合成し、その熱力学的性質を変性実験により解析した。アミノ酸置換によりR2の安定性は大きく変化した。また、側鎖の体積と転移の自由エネルギー変化(ΔΔG)は、p位非分岐アミノ酸では凸型の相関を示すが、p位分岐のものは非分岐の同体積のものよりも不安定であった。これは、分光学的検討から、p位分岐アミノ酸によるタンパク質内部での立体障害が原因と考えられた。一方、アミノ酸置換による安定性変化のメカニズムを原子レベルで明らかにするため、分子動力学計算とX線による構造解析を行った。分子動力学計算では、アミノ酸置換に伴う立体構造のΔΔGを求めた。実験では通常、天然状態と変性状態のΔΔGしか測定できないが、計算機シミュレーションでは各状態でのアミノ酸置換によるΔΔGを求めることができる。計算で得られたΔΔGは実験値と非常に良い一致をみた(相関係数0.98)。また、計算で求められたcavity sizcの変化(ΔV)は構造解析で得られたものと良く一致した。さらに計算で得られた天然状態と変性状態のΔGをΔΔGおよびAVと比較したところ、天然状態のΔGとは良く相関したが変性状態のΔGとはあまり相関しないことがわかった。このことは、cavity sizcの変化を伴うアミノ酸置換による安定性変化は主に天然状態の自由エネルギーで決められることを示唆した。
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