環境情報のひとつである光は、色や形や動きなどと云った短期的な現象を認識するものと日長の変化に対応した休眠・変態などの制御といった長期的な現象を認識するものとに分けることができる。その長期変化を受容する器官は複眼の他に、別の器官の存在が示唆されてきたが、我々は甲虫の脳内に新たな光受容器の存在を明らかにした。この光受容器官と、昆虫の変態・休眠との関係を明らかにすることにより、光の長期現象を生物がいかに認識するかを解明することを目的とする。 計12種の甲虫の脳を解剖し、脳内光受容器の存在と構造を光学・電子顕微鏡を用いて観察した所、内6種では視葉で、3種で脳のcaudal側で、残りの3種では存在を確認できなかった。確認できたすべての光受容器で、マイクロビライがあり色素細胞で囲まれていた。この脳内光受容器の役割を明らかにする為に、日周期現象に関係することが分かっているPer抗体を用いて脳を免疫染色し脳内光受容器との位置的関係を明らかにした。ホタルでは、脳内光受容器が脳のcaudal側に一対あり、Per抗体ポジティブ細胞群はanterior側に一対あった。この脳内光受容器官の機能を知るために、微小電極を用いて電気生理学的にスペクトル応答を記録した。すると、スペクトル応答極大(λmax)は530nmで、複眼のλmaxの560nm、380nmと異なっていた。細胞内染色法により、脳内光受容器側からPer抗体ポジティブな細胞群のあるanterior側方向に伸びているAxonの配行を確認した。ホタルの幼虫の発達と日長との関係を調べるために、長日・短日処理した群と、連続暗黒下群とに分け体長の変化と蛹化の関係を調べた。長日処理(18L:6D)では幼虫の発達が遅れ、短日処理(6L:18D)では長日処理に比べ進んだ。両者とも、飼育温度は23℃でカワニナを餌としたが、現在まで両者とも蛹化していない。
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