フェロモン腺におけるカイコPBANの外部シグナルは膜表面レセプターに伝えられた後、細胞外カルシウムイオンの細胞内流入、カルモジュリン、カルシニューリンを介し、ボンビコール生合成の最終酵素アシルCoAレダクターゼを活性化することで細胞内シグナル伝達が完了する。PBANによるボンビコール産生のメカニズムを分子および細胞レベルから明らかにするため、ボンビコール産生細胞の同定とフェロモン産生過程における形態的変化を調べた。 まず、パパインによりフェロモン腺(第8、9腹節節間膜)を消化したところ、第8、9腹節節間膜をクチクラ層と細胞層に分離した。細胞層は均質な細胞からなりボンビコール生産能を示した。したがって、この細胞層はPBANレセブターを含め機能的なintegrityを保持したボンビコール産生細胞のclusterであると考えられた。 ボンビコール産生細胞の細胞質には特徴的な顆粒が多数見られ、Nile Redで染色されることからlipiddropletsと考えられた。Lipid dropletsは羽化直後、大型であるが時間とともに小型化してその数を増し、減少する。羽化直後に断頭するとこうしたlipid dropletsの変化は見られず、PBANを投与すると小型化してその数が増加した。これらの事実は、lipid dropletsがPBANによるボンビコール産生と密接に関わり、ボンビコールかその前駆体であることを窺わせる。一方、フェ口モン腺より単離したアシルCoA結合タンパク質(ACBP)の抗体はボンビコール産生細胞のlipid dropletsを強く染色するため、lipid dropletsはボンビコール前駆体のアシルCoAであり、そのフェロモン合成の場への輸送をACBPが担うものと考えられた。
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