我々は、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体をはじめとするモノマー構造を有する受容体チロシンキナーゼの多くが、リガンド刺激依存性にポリユビキチン化すること、ならびにポリユビキチン化された受容体は細胞内でプロテアソームにより速やかに分解されることを発見し、これが新しいタイプの受容体チロシンキナーゼのシグナル伝達抑制メカニズムの一つであることを提唱してきた。本研究は、これらの研究結果を踏まえ、受容体ユビキチン化のより詳細な分子メカニズムを解明する目的で、この反応を触媒する酵素群の同定を企図したものである。本年度の研究により、プロトオンコジーンCblが、PDGF受容体上に我々が以前同定していたC末端のユビキチン化酵素結合部位に結合し、この結合が受容体のユビキチン化に必須であることを発見した。さらに、v-Cblはc-Cblにドミナント・ネガティブに作用し受容体のユビキチン化を抑制することにより、受容体の増殖刺激活性を高めていることを明らかにした。この研究は、v-Cblのオンコジーンとしての作用発現メカニズムを明らかにした画期的発見であると自負している。さらにこの研究は、受容体ユビキチン化のメカニズムを分子レベルで明らかにする端緒となる研究成果と言える。今後は、おそらく複合体をなして機能していると想定されるユビキチン化酵素群の全容解明に向けて、Cblを足掛かりにさらに研究を進めて行く予定である。
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