サケ科魚類精子の外腕付近にプロテアソームが存在し、精子運動の調節に関与していることはこれまで明らかにしてきた。プロテアソームは何らかの機構で精子鞭毛のcAMP依存性プロテインキナーゼを活性化し、その結果ダイニン軽鎖がリン酸化されると考えられる。本年度は、プロテアソームの基質タンパク質を同定し、いかにしてcAMP依存性プロテインキナーゼの活性調節が行われているのかを明らかにする目的で研究を進めた。 まず精子を除膜した後、ホモゲナイズすることにより鞭毛軸糸を単離した。軸糸の高塩濃度溶液による抽出液に、これまで確立した方法で精製した26Sプロテアソームを加えると、60KDaのタンパク質の量がわずかながら減少した。この抽出物をSuperdex200ゲルろ過で分離し、得られた各画分に26Sプロテアソームを加えたところ、60KDを含む画分ではその減少がさらに顕著に観察された。この画分に含まれるタンパク質に対する抗体を作製し、lmmunoblottingを行ったところ、60KDaタンパク質の減少は26S:プロテアソームによる分解が原因で起こることがわかった。このタンパク質が鞭毛のプロテアソーム基質の最有力候補であると考え、現在、精製、cDNAの単離を行っている。一方、プロテアソームの下流にあって、リン酸化によりダイニンの活性調節に関与しているダイニン軽鎖のCDNAクローニングを行なった。その結果、この軽鎖がマウスにおいて受精障害や伝達率歪曲に関与することで知られているtctex2と相同であることがわかった。このタンパク質はいくつかのプロテアソームサブユニットがコードされるマウス第17染色体にコードされるため、プロテアソームのサブユニット遺伝子とダイニンサブユニット遺伝子の連関が示唆された。
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