生きた1細胞の、内在性プロテアーゼ活性定量法の確立が、本研究の目的である。そのために本年度は、細胞内高分子量プロテアーゼ(プロテアソーム)活性が受精の際に変動するか否かについて、検討した。すでに申請者は、細胞膜不透過性の蛍光物質として、7-aminocoumarin-4-methanesulfonic acid(ACMS)を開発済みだ。ACMSにペプチドを結合させると、各種の細胞内プロテアーゼ基質が合成できる。 細胞膜不透過性のプロテアソーム用基質(Suc-Phe-Leu-Arg-ACMS)をウニ卵にマイクロインジェクションし、細胞内に増加してくる蛍光(ACMS)を顕微測光により定量した。受精直後から分解初速度は上昇し始め、受精後3分で受精前の約10倍になり、それ以後も高い活性は維持された。この活性の著しい変化は、受精後に引き起こされる細胞内pHの上昇に依存したが、細胞内遊離カルシウム濃度の上昇には依存しなかった。すなわち、Hepesバッファをマイクロインジェクションして、細胞内pHの上昇を引き起こしたところ、受精なしで分解初速度は上昇した。また、このときEGTAをマイクロインジェクションすることによって、細胞内遊離カルシウム濃度の上昇を完全に阻害しても、同様な結果が得られた。したがって、ウニ卵のプロテアソーム性は、細胞内pHによって制御されていることが明らかになった。
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