研究概要 |
我々はアクティブな樹状突起をもつニューロンのコンパートメントモデルの入出力特性に基づいた形式ニューロンを定式化した。形式ニューロンの基となった海馬CA1錐体ニューロンのコンパートメントモデルは、等価円柱で近似した細胞体、基底樹状突起と尖頭樹状突起、および軸索小丘が電気的に結合されたものである。各コンパートメントの膜電位ダイナミクスはHodgkin-Huxley方程式を拡張した微分方程式で記述されている。樹状突起の能動性を表現するモデルパラメータは、最新の生理学的知見に基づいて設定した。また、ニューロンは多種の興奮性および抑制性シナプス入力を受容するが、これらはその入力系統に応じて細胞体や樹状突起の上を整然と「棲み分け」ていることが知られている。そこで「シナプスの棲み分け」を考慮して形式ニューロンを構築した。具体的には、興奮性(x)および抑制性(y)シナプス入力をそれぞれ尖頭樹状突起の中央に配置されたものをx_m,y_m,末端に置されたものをX_d,y_d,および基底樹状突起に配置されたものをX_b,y_b)と記す。同時に与えられる1組のシナプス入力(X_b,y_b,X_m,y_m,X_d,y_d)に対するニューロンの出力ζ(1または0の値をとり、ニューロンの興奮をζ=1で表す)が次の様に定式化できるものと仮定した。ζ=θ[I_<dendrite>(x_b,y_b,x_m,y_m,X_d,y_d)-h]。ここにI_<dendrite>は樹状突起によるシナプス入力の統合特性を表すスカラー関数(シナプス入力統合関数),hはニューロンの発火閾値、またθ=[z]はヘビサイドステップ関数(z【less than or equal】0でθ=1、z<0でθ=0)である。シナプス入力統合の局所性と階層性を考慮し、コンパートメントモデルのシミュレーション結果に基づいて、I_<dendrite>の構造を同定した。構築された形式ニューロンは、古典ニューロンで構成された多層神経回路網と相似な構造を有していた。ここでは以上のように、シナプス入力間の相互作用の特性に基づき、アクティブな樹状突起を有するニューロンモデルの入出力特性を定量的に近似する形式ニューロンを開発した。この形式ニューロンは多層神経回路網と相似な見通しのよい構造をしており、大規模なネットワークモデルの構築に適するものである。また、このモデルは生物学的に知られている樹状突起のアクティブな性質とシナプスの棲み分けの機能的意義を理解する上でも有用である。さらにモデルを改良して行くとともに、回路網を構成しそのダイナミクスを調べることにより樹状突起の能動性の機能的意義を明らかにして行く。
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