研究概要 |
音情報は聴神経を経由して、蝸牛神経核群にもたらされる。鳥類では、音の強さ及び時間情報は別個の蝸牛神経核により抽出され(強さ:角状核、時間情報:大細胞核,NM)、上位の神経核に投射される。上位核では、左右の耳に入った音の強さや到達時間の差を検知する。両耳間時差(ITD)は、個々の層状核(NL)細胞がNMからの興奮性入力の同時検出器として働くことにより、NLの位置に符丁化されると考えられている。NL細胞において、音刺激を実際に与えた時観察されるITD検出機構の精度は0.1ms以下で、非常に鋭い。この鋭い検出機構を可能にする要因を明らかにするために、NL細胞での情報処理機構を解析した。左右のNMからのNLへの投射線維を独立に刺激して閾値以下のEPSPを発生させ、これらの重畳による活動電位の発生を観察し、刺激の間隔と活動電位発射確率の関係を調べた。最大発射確率の半値以上を与える時間幅(rw)を同時検出機構の精度の指標として評価した。その結果rwは平均4.5msで、細胞によるばらつきがあった。rwはEPSPの時定数に有意な相関を示したが、EPSPの振幅や静止膜電位とは相関しなかった。NLへはGABA作動性入力も投射するが、GABAはA型受容体を介した短絡効果によって、EPSPの時定数を著明に短縮させ、その結果、rwは1.6msに減少した。これは時間情報を基にした音源定位で、GABA作動性入力がその精度を向上させうる事を示唆した。しかし、実際の音刺激を与えた時のITD検知機構の精度を説明できなかった。この結果を平成10年度、本特定領域研究の夏、冬のワークショップで発表したところ、建設的な意見や批判を受けることが出来た。今後、これらの意見を基に、シナプス生理学的立場から、音源定位機構に関する作動原理を本特定領域研究のメンバーとともに、提唱したいと考えている。
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