大脳皮質のニューロンでは数千のシナプスへの入力信号の統合の結果が、次のニューロンへの信号伝達(スパイク発生)を決定する。このとき発生するシナプス電位は通常数十ミリ秒で減衰する。従って、シナプスでの統合が効率良く生じるためには、発生した電位変化が比較的短い時間間隔で起こる必要がある。1個の神経細胞が短時間に数発から十数発のスパイクを発生するバースト発射は、上記のようなシナプス電位の時間的加重に伴い、ターゲット細胞に大きなインパクトを与えることが知られている。一方、バースト発射の高次脳機能のおける役割はあまり注目されてこなかった。そこで、今年度は、前頭連合野(帯状回前部および前頭連合野外側部)のニューロンでバースト発射を示すものについてその特徴を解析した。バースト発射のパターンはニューロン毎に異なっており、いくつかのタイプに分類することができた。(1)FSニューロン(Fast Spiking Neuron):1つのバースト内のスパイク数が多く、バースト中のスパイク間隔、スパイク・サイズの減少がわずかである。(2)IBニューロン(Intrinsic Bursting Neuron):3-6発程度の比較的少ないスパイク数のバーストで、バーストの1発目に比べ2発目、3発目とスパイク・サイズの減少とスパイク間隔の延長が見られる。(3)FRBニューロン(FastRythmic Bursting Neuron):バーストのスパイク数は3-6で、スパイク間隔はFSニューロンのように比較的短く、バースト中、スパイク・サイズ、スパイク間隔はあまり変化しない。また、バーストが一定の時間間隔で繰り返し発生する傾向にある。これらのニューロンのうちのいくつかは学習課題の中で学習課題の特定のイベントに対応してバースト発射を示した。一連の解析の結果、バースト発射の特徴を用いて、高次脳機能を担う大脳皮質内回路の解析が可能なことが明らかになった。
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