上丘は視野内の特定の対象から別の対象に視線を移すときに行われる急速眼球運動(saccade)を制御する中枢である。申請者らは、上丘中間層に強く入力することが知られている脚橋被蓋核由来のアセチルコリン作動性線維の機能を解明することを目的として研究を行った。まず、ラットの上丘スライス標本を用いて、視神経から浅層を介して運動指令を出す出力層である中間層への興奮製の伝達経路が存在することを証明した。この回路の伝達はグルタミン酸受容体を介して行われている。そしてアセチルコリン作動性入力は中間層ニューロンにおいてニコチン型受容体を活性化すること、そして中間層ニューロンがニコチン受容体の活性化によって脱分極すると視神経-浅層-中間層という上丘内に存在する視覚-運動変換の短絡経路は促通を受け、信号が流れやすくなることをホールセルパッチクランプ法を用いて明らかにした。このような短絡経路の促通が行動に対してどのような意義を持つかを調べるために、眼球運動課題遂行中のサルの上丘にニコチンを注入したところ、注入間前は約150msecだったsaccade運動の反応時間は100msec前後に劇的に短縮した。この結果はサルにおいても浅層-中間層の短絡経路がニコチンによって促通を受けたことを示唆する。以上の結果から、脚橋被蓋核由来のアセチルコリン作動性繊維が上丘中間層のニコチン受容体の活性化を介してsaccade運動の反応時間を調節し得ることが明らかにできた。今後は脚橋被蓋各ニューロンの活動記録の詳細な解析を通じて注意と脚橋被蓋核ニューロンの活動、また脚橋被蓋核ニューロンの活動とsaccade運動の反応時間との関係を明らかにしていきたいと考えている。
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