ウェルナー症候群患者由来線維芽細胞では自然老化細胞と同じように様々な遺伝子のmRNAレベルにおける発現変化(転写異常)がみられ、これがウェルナー症候群における各種老化徴候の発現につながると考えられる。この転写異常をきたす機構として、ウェルナー症候群原因遺伝子産物(WRNヘリカーゼ:WRN-H)が直接的に各種遺伝子の発現調節に関与している可能性とWRN-Hがテロメアやクロマチン構造の維持や他の転写活性を持つ生体内分子との相互作用を介して間接的に各種遺伝子の発現調節に関与している可能性がある。 そこで本年度はWRN-Hの直接的な転写活性の有無を検索するため、酵母の系でのTATAプロモーターにおけるWRN-Hの転写活性の検出を試みた。その結果、全長のWRN-Hは酵母においてTATAプロモーターからの転写を約20倍に増強することが明らかになった。WRN-Hの転写活性領域を明らかにするためにWRN-Hの各種断片を用いて同様の転写実験を行った。その結果、WRN-Hの転写活性は酸性領域を含むアミノ酸配列、315から403の領域に存在し、さらに酸性領域とヘリカーゼ領域を含むアミノ酸配列、404から1309の領域は315から403の領域存在下において転写活性増強作用を示すことが判明した。 この結果はまだ酵母内でのTATAプロモーターについて証明されたにすぎないため注意が必要であるが、同様の結果が哺乳類細胞でいくつかのプロモーターについて証明されれば、ウェルナー症候群における各種老化徴候の発現機構解明の糸口となると考えられる。
|