1)出芽酵母ミトコンドリアDNAの相同的組換えに必須なMHR1遺伝子は、未知の蛋白質をコードし、その生理活性は不明である。これを明らかにするために、既に作成したMHRl蛋白質の抗体を用いて、ウエスタンブロット法で大腸菌と酵母細胞内で発現したMHRl蛋白質をそれぞれ検出し、そのサイズを比較したところ、MHRl蛋白質はミトコンドリアのマトリックスに移行した後、通常のマトリックスに局在する蛋白の場合と違って、ミトコンドリアへのターゲッティング配列が切り離されないことがわかった。2)MHRl蛋白質の生理活性を調べるために、野生型MHR1遺伝子と変異型mhrl遺伝子をそれぞれクローニングし、大腸菌の大量発現ベクターに挿入し大量発現を行い、蛋白質をそれぞれ高純度に精製した。得られた蛋白質を用いて各種のDNAとの相互作用の有無をゲルシフトアッセイで調べたところ、MHRl蛋白質が組換え中間体を初め各種のDNAに対して結合能を示すが、非許容温度下で変異型mhrl蛋白質のDNA結合能がなくなることが明らかとなった。それ以外の酵素活性は見いだせなかった。3)既知のミトコンドリアの組換え中間体解離酵素をコードする遺伝子CCEl.を破壊した突然変異とmhr1突然変異との二重突然変数体はミトコンドリアDNAを全く保持できない。またミトコンドリアプラスミドDNAを持ち、呼吸機能を持たない酵母細胞のMHR1遺伝子、及びCCEI遺伝子を破壊し、酵母細胞の全DNAを抽出し、2次元電気泳動を行い、ミトコンドリアプラスミドDNAをプローブとしてサザンハイブリダイゼーションを行うことによってMHR1破壊株では、DNA上に組換え中間体が蓄積することを見付けた。このことは、ミトコンドリアには組換え機構が二重に存在すること、及び、組換え機能はミトコンドリアDNAの維持に欠かせないことを示す。独立栄養生物で、DNAの維持が組換え機能を要求している例は本例が最初である。
|