研究概要 |
DNA修復機構におけるParpの機能を直接的に調べるためにマウス本酵素遺伝子断片を単離し、エクソン1を含む6kbを用いて作成したtargeting vectorをマウスES細胞J1に導入し、Parpヘテロ欠損株及びParpホモ欠損株を樹立した。Parpホモ欠損株ではParp活性は消失していた。アルキル化剤methyl methanesulfonate及びガンマ線照射に対する感受性をコロニー形成能で調べたところ、Parpヘテロ欠損株の感受性は親株と変わらなかったが、Parpホモ欠損株はアルキル化剤methyl methanesulfonate及びガンマ線照射に感受性亢進を示した。ガンマ線照射後、Parp欠損株においてもP53タンパク質レベルの上昇、及びp21,mdm-2mRNAの誘導とG2期停止誘導が認められたことからParpは、ES細胞のG1及びG2期周期停止誘導には必要でないことが示唆された。一方、樹立したParpヘテロ欠損ES細胞株を用いて129SvJ/ICRを遺伝的背景に持つParp欠損マウス系統を作成した。Parpホモ欠損マウスは、発生、形態異常や不妊性を示さなかった。このParp欠損マウスを用いて個体レベルでDNA損傷に対する感受性を調べたところ、ガンマ線、N-methyl-N-nitrosoureaによる致死効果が亢進していた。ところが同じくアルキル化剤に属するが、膵臓に特異的にβ-細胞傷害を誘発するstreptozotocin(STZ)による傷害に対しては抵抗性を示した。STZ腹腔内投与後、野生型マウスでは顕著なランゲルハンス島におけるβ-細胞死と委縮が認められ、血糖値の上昇が継続したが、Parpホモ欠損マウスではβ-細胞死とその機能障害は非常に軽微であり、血糖値の上昇は認められなかった。このことから種々のDNA損傷によるβ-細胞死が原因となるインスリン依存性糖尿病発症過程においてParpが重要な役割を有することが示された。
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