研究概要 |
生物の発生において,卵の細胞質中の母性因子が後の発生過程のさまざまな局面で大きな役割を果たすことが知られている.ホヤの卵は,初期胚の細胞の多くが自律的に分化する能力を持つモザイク卵として知られてきた.最近,卵には筋肉・表皮・内胚葉分化の決定因子や胚の前後軸形成や原腸陥入に関わる因子などが局在することが明らかにされている.ホヤのゲノムは脊索動物型のゲノムの基本セットであると考えられ,卵への遺伝子の導入による機能解析の容易さとも相俟って,ホヤはゲノム理解のための格好のモデル生物であると思われる.本研究では卵内因子として母性のmRNAに着目した上で,日本産マボヤ卵内mRNAの塩基配列とその胚発生での発現,さらに各遺伝子産物の発生における機能を網羅的に解析し,母性の遺伝情報を総合的に理解することが目的である.ホヤ卵内には1万弱の遺伝子が発現していると推測されている.そこでランダムにとった受精卵cDNAの両側約500bpずつの塩基配列の決定とwhole-mount in situ ハイブリダイゼーション法による各遺伝子の発現パターンの解析を精力的に行っている.これまでに既に3,000を越えるクローンについて塩基配列の決定を行った.得られた3'側の非翻訳配列はクローンの同定に,5'側の翻訳配列はコードされるタンパク質の正体を探るのに用いている.これまでの結果から,卵内メッセージのうち約24%のクローンについて既知の遺伝子との類縁関係が確認された.この中には,転写因子・プロテインキナーゼ・RNA結合タンパク質・分泌性シグナル分子などが,それぞれ複数種類ずつ見出された.また,互いに独立な約1,000クローンについて発現の解析を行ったところ,予想を上回る約6%ものクローンが初期胚内,特に多くのものが胚の植物極側後方の細胞質に局在して発現されることが見出された.
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