研究概要 |
本研究の目的は、ゲノム情報の明らかになっている線虫をモデル動物として、効率の良い標的遺伝子群の単離法を開発し、多くの動物種で保存されている、発生過程における転写調節機構を明らかにすることである。我々がマウスHoxの標的として単離した遺伝子の一つ(mmab1)は、線虫の形態形成に関わる遺伝子mab21のマウスオーソログであった。遺伝学的解析からmab21は線虫Hox遺伝子の一つeg15の標的である可能性が指摘されていた遺伝子であった。このことはこの遺伝子が種をこえたHox標的遺伝子であることを示していると考えられる。この遺伝子の発現調節機構を明らかにするため、トランスジェニック線虫、トランスジェニックマウスを作製し解析した。線虫mab21遺伝子はhypodermis, neuron,ray(雄の生殖に関わる感覚器官)で特異的に発現しているが、トランスジェニック個体の解析から、それぞれの領域での特異的発現に関わるエレメントを特定した。hypodermisでの特異的発現調節エレメントは遺伝子の上流に、neuronおよびrayでの調節エレメントは第4イントロンの異なる領域に存在した。Hox(eg15)遺伝子との遺伝学的な相互作用はrayにおいて観察されるが、rayでの特異的発現がeg15遺伝子産物によって規定されているかどうかを明らかにするため、eg15ミュータント中でのreyでの特異的発現エレメントの働きを解析した。egl5遺伝子を異所的に発現させた個体中でこのエレメントに依存したレポーター遺伝子の特異的発現が観察されたことから、egl5がこのエレメントを介しでmab21遺伝子の発現を制御していると考えられる。マウスmab1遺伝子は中脳、脊髄、生殖原器などで発現しているが、トランスジェニックマウスの解析から、これらの発現をコントロールしている配列が、遺伝子の上流約2kbに存在することが明らかになった。この配列は、Hox抗体によって単離された配列であり、この領域にHox標的配列が存在することを示唆している。上記の結果は、mab21遺伝子が線虫においてもマウスにおいてもHoxの標的であるということを強く示すとともに、我々の単離法が標的遺伝子の特定に有効であるということを表している。
|