糸球体腎炎の発症機構には、初期にサイトカインや増殖因子が関与し、次に細胞増殖と細胞外基質の沈着が生じる事が知られている。しかし、腎炎発症機構の分子レベルでの解析は少なく、特に細胞内情報伝達系の研究は培養メサンギウム細胞での成績であり、腎炎との関連性は全く不明である。また、メサンギウム細胞を含めた培養細胞は、in vovoでの状態とは異なる形質を発現していることが報告されてきている。抗腎炎作用薬の研究には、この点を踏まえたiv vovoの個体レベルの研究が必須である。本研究は、メサンギウム増殖性腎炎モデルである抗Thy1腎炎を用いてオレアノール酸系化合物の抗腎炎作用機構を細胞内情報伝達系の面から検討した。このモデルの特徴は組織学的にはメサンギウム細胞の増殖とメサンギウム基質の増加である。 オレアノール酸系化合物の腎炎抑制作用が、免疫抑制作用に因らないことを補体価、免疫グロブリン分画、インターロイキン-1β産生能のいずれにも関与しないことから確認している。さらに、オレアノール酸系化合物自体にステロイド作用のないこと、あるいは血中コーチソール濃度に変化を与えないこと、ヒト血小板からの血小板由来増殖因子遊離に影響しないこと、抗血小板作用のないことなどが現在までに判明している。すなわちオレアノール酸系化合物の抗腎炎作用は、従来から治療に使われてきたグルココルチコイドなどの免疫抑制剤、アンジオテンシン変換酵素阻害薬などの降圧薬、その他、抗凝固剤、抗血小板剤などとは異なる。 抗Thy1抗体を7週令の雌wistarラットに投与し、投与後30分、120分、1日、3日、5日後のMAPキナーゼ(ERK、JNK)と転写因子のAP-1、NF-kBを検討した。プレドニゾロン投与(1mg/kg/日)は、抗Thy1抗体投与3日前から投与した。オレアノール酸系化合物は0.3、1、3mg/kg/日の用量を経口投与した。プレドニゾロンやオレアノール酸系化合物の投与により、糸球体での細胞増殖や、細胞外基質面積の増加が抑制された。プレドニゾロンの作用はMAPキナーゼ(ERK、JNK)経由のAP-1、NF-kBへのシグナルを抑制した。
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