アルツハイマー病は、脳において著しい神経細胞死および老人斑および神経原線維変化を引き起こし、痴呆を伴う神経変性疾患である。本年度は、プログラム細胞死の調節蛋白質であるBcl-2ファミリー蛋白質に着目し解析した。アルツハイマー病脳では対照群と比較して、細胞死を促進するBakおよびBad蛋白質量が増加していた。また細胞死を抑制するBcl-2およびBcl-x蛋白質量も増加していた。アルツハイマー病など脳障害時には著しい酸化ストレスが発生することが知られている。アルツハイマー病脳では細胞死を回避するため代償的にBcl-2およびBcl-Xの発現量が高まることが推定された。これまでにアルツハイマー病脳において、蛋白質リン酸化の変化についても報告されている。そこでヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いて、プロテインキナーゼ活性化薬および抑制薬を用いてBcl-2ファミリー蛋白質の変動および細胞死について解析した。細胞死を抑制するBcl-2蛋白質発現は、Cキナーゼ活性化薬(PMA)、ホスファターゼ抑制薬(オカダ酸)、Pl-3K抑制薬(ワルトマニン)、チロシンキナーゼ抑制薬(ハービマイシンA)処置により増加した。一方、Cキナーゼ抑制薬(カルホスチンC、スタウロスポリン)およびAキナーゼ活性化薬(diBu-cAMP)によりBcl-2蛋白質発現は抑制された。一酸化窒素(NO)によりSH-SY5Y細胞はP53蛋白質を発現してアポトーシスを引き起こす。この時、diBu-cAMPおよびスタウロスポリンで前処置しBcl-2蛋白質量を減少しておくとNOによるアポトーシスが増強された。以上のことから、AキナーゼおよびCキナーゼばBcl-2発現を調節することにより、アポトーシスを調節することが示唆された。
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