葉緑体ゲノムにコードされるATP依存的プロテアーゼの活性サブユニット遺伝子clpPは、細胞機能に必須で、タバコ葉緑体形質転換による完全な遺伝子破壊は不可能であった。破壊株は、50%の正常なclpPを持つにもかかわらず、葉の構造に著しい異常を示した。 clpP破壊株緑葉の葉緑体の構造を電子顕微鏡により観察したところ、同一細胞内に正常な葉緑体と巨大なグラナ様の構造からなる異常な内膜溝造を持つ小型葉緑体が混在することが確認された。また蛍光顕微鏡による観察から、この異常葉緑体に対応すると思われる小型でクロロフィル蛍光の高い葉緑体が、葉組織全体に分布することが確詔された。異常葉緑体は全体の約20%を占めるが、細胞により異常葉緑体の含まれる割合が異なっていた。またクロロフィル蛍光の誘導パターン及びクロロフィルa/b比から、電子顕微鏡で観察された異常な内膜構造が、光化学系IIを多く含むグラナ様の性質を持つことが示唆された。 メリステム周辺の細胞では、一様に内膜が膨潤した異常なプラスチドが観察された。またメリステムを囲む非常に若い葉では正常な若い葉緑体に混じって、ストロマラメラが網目状につながった内膜構造を持つ葉緑体が観察された。このことから、葉緑体の分化に伴い内膜溝造の回復がおこる一方、一部の葉緑体でグラナ様異常内膜構造への転換が起こると考えられる。 また暗所で展開させた葉では、野生株で見られるエチオプラストの代わりに、小胞状の顆粒を蓄積するプロプラスチド様の構造が観察された。また緑化にともない正常な若い葉緑体と混じって、膨潤した内膜が数層に積み重なる構造が確認された。 以上の結果から、clpPは葉緑体分化過程の少なくとも2つのステージ、(1)葉緑体分化のごく初期と(2)グラナの成熟が起きる時期に機能し、正常な内膜構造の形成に必須であることが明らかになった。
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