イネSPKは、登熟中期の未熟種子特異的に強く発現するカルシウム依存プロティンキナーゼである。本研究では、SPKの生化学的性質の解明を行なうとともに、アンチセンス植物などを利用して、SPKの機能、とくにシンク器官における貯蔵物質生合成への関わりについて解析した。まず、大腸菌蛋白発現系を利用し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質としてSPKを調製した。得られたSPKタンパク標品はカルシウム依存性の蛋白質リン酸化活性を示した。次に、SPK遺伝子の発現をレポーター遺伝子を用いて調べたところ、SPKは未熟種子での強い遺伝子発現が認められた。また、葯や茎でも明らかな活性が認められた。未熟種子についてin situハイブリダイゼーションにより遺伝子発現を検定したところ、この遺伝子発現は胚乳特異的であることが明らかとなった。糊扮層や胚での遺伝子発現は認められなかった。一方、アンチセンスSPK遺伝子を導入したイネの未熟種子に現れた表現型について、蛋白質レベルでの変化を調べたところ、これらの未熟種子中ではほとんどの蛋白質生合成が抑制されていることが明らかとなった。花粉のデンプン蓄積にも強い阻害が見られた。そこで、デンプン生合成に関与する様々の酵素タンパク質に対するSPKのリン酸化活性を調べることで、SPKの基質特異性を解析した。その結果、SPKはショ糖代謝系の酵素のリン酸化活性を有することが明らかとなった。これらの結果から、SPKは未熟種子や花粉でのショ糖からデンプン蓄積への代謝経路に関与する制御因子であることが強く示唆された。
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