本研究では、マウス始原生殖細胞発生の分子機構を解明することを目的として、これまでに初期胚未分化幹細胞からなるエピブラストから、始原生殖細胞が分化する初代倍養系を確立し、エピブラスト上端部に始原生殖細胞の形成に必要な局所環境が形成されることを見い出した。昨年度の結果から6.0日胚以降では、胚体外組織を全て取り除いて得た単離エピブラストまたはその上半分の断片から、培養下で始原生殖細胞が分化することが明らかになっている。そこで次に、これより早い発生段階について、単離エピブラストからの始原生殖細胞の分化の有無を調べたところ、5.75、5.5日胚のいずれでも始原生殖細胞は分化しなかった。次に、6.0日胚以前のエピブラストを、エピブラスト上端部と接して存在している胚体外外胚葉をつけたままで培養したところ始原生殖細胞の誘導が認められた。この結果から、5.5から6.0日胚の間に、胚体外外胚葉の作用によりエピブラスト上端部に始原生殖細胞の分化に必要な局所環境が誘導されることが予想された。一方、出現して間もない始原生殖細胞から、その分化決定を制御する遺伝子をクローニングすることを目的に、生殖系列細胞で特異的に発現しているOct-3/4遺伝子の発現制御領域に、green fluorescent protein(GFP)遺伝子をつないだキメラ遺伝子でトランスジェニックマウスを作製した。得られたトランスジェニックマウスでGFPは、8.0日胚以降始原生殖細胞で特異的に発現し、分化して間もない始原生殖細胞を単離する事が可能であると考えられた。
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