研究概要 |
Msx2ノックアウトマウス歯では、アポトーシス障害が生じ、歯上皮由来のエナメル器の細胞の分化異常が生じ、本来エナメル器の細胞がアポトーシスにより消失すべき部位に異様な扁平上皮様細胞が増殖し、ついには壊死に陥る。このため、エナメルは形成されず、歯冠および歯根の形態異常をきたした。歯上皮でのShh,Bmp2,4,Fgf4などの発現を調べたが、Bmp4の発現が著明に減少しており、歯上皮のアポトーシスには、Msx2→Bmp4-アポトーシスという経路が存在していることが考えられた。Msx2ノックアウトマウスでは、生後1ヶ月頃より、長管骨での骨端軟骨の低形成、海綿骨および皮質骨の形成不全が明らかになった。骨芽細胞、軟骨細胞はともに減少していた。骨芽細胞の分化マーカーでは、Pebp2αA/Cbfa1、オステオネクチン、AlP、オステオポンチン、BSP、オステオカルシンが、軟骨細胞の分化マーカーでは、II型およびX型コラーゲン、PTHrPおよびPTH/PTHrPレセプターの発現が減少していた。Msx1およびMsx2は、これらの遺伝子の発現調節に関わっていることが推測された。Msx1・Msx2ダブルノックアウトマウスでは、第1指の低形成、多指症、合指症、橈骨および脛骨の欠損などの四肢の発生異常が認められる。Msx1・Msx2ダブルノックアウトマウス肢芽では、極性化領域に認められるべきShhの発現が認められず、頂堤におけるFgf4の発現が前方に移動し、さらに、Bmp4の肢芽前部間葉における発現が消失していた。Msx1およびMsx2は、これらの遺伝子の発現を調節していることが考えられた。また、本来起こるべき指間組織のアポトーシスがほとんど認められず、上皮(頂堤)BMP→指間間葉組織Msx1およびMsx2→BMP4→アポトーシスという経路が指間組織のアポトーシスに存在することが考えられた。Msx1・Msx2ダブルノックアウトマウスの神経管閉鎖不全および心奇形の分子機構の解明を試みたが、研究期間中には一定の結論は得られなかった。ノックアウトマウス組織を用いたdifferential displayによるMsx1およびMsx2の下流遺伝子群のスクリーニング法は有効な方法と考えられた。
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