脊椎動物の初期胚における基本的なボディプランは、主に初期中胚葉が中核的役割を担っているといえる。原腸陥入期を終えた中経葉は初めは一様であるが、徐々にその特性を獲得しさまざまなサブタイプが形成される。今年度は、初めは一層であった側板から二層の異なる中胚葉組織が形成され、それらがからだの外側と内側を形成し、やがては体腔を構築する現象に注目し、その分子機構について主にシグナル分子に焦点を当てて解析した。 側板は、初めは一葉の間充織様の細胞集団からやがて二層の細胞層が出現して形成される。それらのうち外胚葉を裏打ちするものを壁側中胚葉(Smt-m)と呼び、内胚葉に隣接するものを臓側中胚葉(Spl-m)という。やがてSmt-mとSpl-m間のスペースは膨張し体幹部における体腔を形成する。このように、ある組織からたった二種類の組織が形成されるという二者択一的発生現象は、側板・体腔の形成のみならず、器官形成と細胞分化の研究に当たり絶好のモデル系として用いることができる。 私たちはまずSmt-mとSpl-mの二層の形成及びその間の体腔の広がりは、胚の前方から後方に向かって進行し、かつその前後軸に沿った進行は、体節のそれとは同調していないことがわかった。次に原始側板中胚葉から、smt-mとSpl-mが分化する際、それぞれに隣接する外胚葉と内胚葉との組様間相互作用が関わっている可能性に注目した。まずこれらの組様に特異的に発現する分子マーカーを同定した。次にin ovoやin vtroにおける組織の移植及び組織培養法を用いて、Smt-mの形成にはSmt-mと外胚葉との相互作用が必須であることを見いだした。さらにこれらの外胚葉からのシグナルはシグナル分子BMPによって媒介されていることがわかった。 動物の進化を考えるとき、体腔の獲得はさまざまな特典を生み出した。今回我々が明らかにした側板/体腔の形成機構はおそらくは脊椎動物全般に共通であると思われるが、それが動物の系統樹の上でどこまで保存されているか興味深い。
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