本研究は、分裂酵母モデル系を用いて、HSP、転写因子、MAPキナーゼあるいはカルシニューリンなどが複雑に関与するストレス応答機構を、主に分子遺伝学的手法により解明することを目的としている。平成10年度は、以下のような成果を得た。 1.ストレスにより活性化される新規MAPキナーゼ系について我々が発見した分裂酵母の第3のMAPキナーゼであるPmk1は、細胞を高浸透圧あるいは高温度下におくとそのチロシン燐酸化が増加する。これらのストレスから燐酸化にいたる経路は不明であるが、我々は既に、遺伝学的手法により、Pmk1を脱リン酸化するフォスファターゼを同定し、昨年度報告した。今年度は、Pmk1を燐酸化するキナーゼPek1を同定した。Pek1は上流のキナーゼにより燐酸化されるとPmk1を活性化するが、燐酸化されていない場合は、Pmk1を抑制ナることが明らかとなった。この上うなPek1の性質は、本MAPキナーゼ系にall-or-none的な性質を付与すると考えられ、燐酸化によってコントロールされる分子スイッチとしての役割を果たしていると予測された。 2.過剰発現により亜砒酸ナトリウム抵抗性を与える新規転写因子について亜砒酸ナトリウムは熱ショックに類似したストレス反応を細胞に引き起こすことが良く知られている。昨年、過剰発現した場合、細胞に亜砒酸ナトリウム抵抗性を付与するb-zip型の転写因子をコードする遺伝子のクローニングを報告した。本年度は、転写因子以外にGTP結合蛋白質のGEFをコードする遺伝子とグルタチオン代謝に関連すると思われる遺伝子を新たにクローニングした。
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