新生分子は小胞体内での構造形成の後に、小胞体からゴルジ体に向かい細胞外に分泌される.この過程の律速となるのは小胞体から出てゆく過程であるとされる.本研究では肝細胞から分泌されるa1アンチトリプシン(AT)をモデルとして、その成熟過程を解析した.まずこの分子のフォールディングをmicrosomeの系においてプロテアーゼ耐性の獲得を調べたところ、5分以内にほぼ最大耐性が得られることが明らかとなった.次に小胞体からの脱出速度をパルス標識、Nycodenzグラジエントを使った細胞分画により調べると生合成後半分の分子がERGICに移行するまでに約7分しか要せず、細胞から分泌されるまでに要する時間(T1/2=44分)のうち、ERGICからは約20分、ゴルジ体からは約10分の半減期で細胞外に向かうことが示された.この長時間のERGIC/GOLGl系への滞在は小胞体とのリサイクリングによることがその逆輸送を阻害するBafilomycinを用いた実験により示された.これは免疫蛍光で調べた場合、定常状態におけるATの局在がERGICであることと一致する.次にそのERGIC/Golgi系への長期の滞留とリサイクリングの機構を明らかにするために、その移行に関与しうる分子や影響を調べた.putative cargo receptorとされるERGIC53について過剰発現による影響をまず調べたところ、ERGIC53の過剰発現はATの分泌速度を低下させ、ERGICに滞留する時間を遅延させたことより、extensiveにrecyclingが起きていることが示唆された.このような細胞内移行のkineticsはATを293細胞に発現させるとfoldingの速度に変化はないものの移行が遅延するので、この細胞に発現してそのkineticsへの影響を調べたところ、小胞体からの脱出速度の変化は見られずERGICへの滞留時間が遅延した.次にリサイクルせず小胞体に係留されるような変異分子を、ERGIC53の内腔部分を小胞体への強い滞留シグナルを持つカルネキシンの膜貫通部、細胞質部分に連結させたERGIC53/calnexintcキメラを作り過剰発現させると、ATの小胞体からの脱出は強く阻害された.この分子はマンノースレクチンであることが証明されているので、この効果が糖鎖との相互作用の結果によるものかどうかを、レクチン活性をもたない変異ERGIC53の過剰発現により調べたところ、wild type、キメラ型いずれにもその阻害効果に変化は見られなかった.また、これらの過剰発現はfolding自体には、何の影響もなく、移行kineticsだけに影響を与えた.これらの結果は、ATはERGIC53によって小胞体、ERGIC/Golgi間のリサイクリングを受けることが示唆する.
|