遺伝子ターゲッティング実験により、造血幹細胞/前駆細胞の未分化な状態を維持する上で必須な転写因子のひとつとしてc-mybが、赤血球・巨核球へと分化していくために必要な転写因子のひとつとしてGATA-1が明らかになっている。この二つの転写因子はともにCBPをコアクチベーターとして利用するが、共通のコアクチベーターを利用することがどのような生理的役割を持つのかは不明であった。そこで、GATA-1、c-MybおよびCBPの相互作用を生化学的、機能的に解析し、血液細胞分化、特に赤血球細胞への分化における遺伝子発現調節機構を解明することを試みた。まず、GATA-1とc-Mybとが相互作用するかどうかをレポーターアッセイにより調べたところ、GATA-1とc-Mybとは互いの転写活性化能を抑制しあうことがわかった。この両転写因子の相互抑制の機構を調べるために試験管内結合実験を行った結果、CBPにおけるGATA-1の結合ドメインとc-Myb結合ドメインとがオーバーラップしているため、共通のコアクチベーターCBPに競合的に結合して、GATA-1とc-Mybのいずれか一方しかCBPを利用できないことか相互抑制の原因の一つであることが明らかとなった。また、MEL細胞を用いた遺伝子の強制発現実験において、CBPのC-Myb結合ドメインはDMSOによる分化誘導を促進し、GATA-1結合ドメインは抑制した。以上の結果は、分化の進行に従って順次発現してくる転写調節因子が相互に転写活性化能を抑制しあうことが正しい遺伝子発現に寄与していることを示唆している。すなわち、転写調節因子は分化段階の前後で発現する別の転写調節因子が誤って転写開始複合体に組み込まれ不適当な遺伝子発現が起きないようにする蛋白-蛋白相互作用が存在し、これが安全装置のように機能していると考えられる。
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