オーファン核内レセプターRORαは転写制御因子として生後の小脳プルキンエ細胞の樹状突起形成に密接に関与している。一方、神経細胞の分化・発達、あるいはその細胞死にスフィンゴミエリンやガングリオシドなどの糖脂質が重要な働きをしている。サポシンはこれら糖脂質の代謝活性化因子で、その前駆体タンパクであるプロサポシンはニューロトロフィンとしても作用する。プロサポシン遺伝子(pSAP)のプロモーターにRORα応答配列(RORE)が存在し、また小脳でのその発現がプルキンエ細胞特異的であることがin situhybridization実験で明らかになったので、RORαによるPSAP遺伝子の転写制御機構をトランスフェクション実験で解析した。その結果、プロモーター上流に存在するROREにRORαが結合し、連結したtk遺伝子プロモーターの転写を活性化することができるにもかかわらず、RORαによるpSAP遺伝子プロモーターの活性化が見られなかった。さらに、人工的に連結したグルココルチコイドホルモン応答配列(GRE)もpSAP遺伝子プロモーターに対しては不活性であった。しかし、興味あることに、pSAP遺伝子プロモーターに対するROREやGREの活性化能力の欠如は細胞特異的で、P19細胞では活性化できないがHeLa細胞では活性化できることが明らかになった。これらの結果はPSAP遺伝子プロモーターに核内レセプター依存的な転写活性化に影響を及ぼす領域があることを示唆している。現在、この領域を同定し、その作用機序を解析しつつある。今後、プルキンエ細胞でのpSAP遺伝子転写にRORαが直接関与しているかを解析する予定である。
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