哺乳類X染色体の不活性化の開飴に必須な遺伝子XISTのRNAは、蛋白質をコードせず、不活性化開始時にX染色体上に局在を開始し、最終的には不活性X染色体全体を覆い尽くすことから不活性化の開始・伝播に関わるシグナルと考えられている。機能的なRNAが染色体の活性を変えるというこの新奇な現象の全貌解明の手始めとして、XIST RNAの局在に関する機構を解析して以下の結果を得た。 マウス繊維芽細胞A9中に導入されたヒト不活性X染色体上にはXISTRNAが局在しないが、同じ染色体をmicro cell融合法でヒトHeLa細胞へ導入すると局在性が回復した。同様にヒト不活性X染色体をマウス胚性腫瘍(EC)細胞に導入すると不活性状態が解除され再活性化が起こるが、その上にあるXIST遺伝子は発現したままであった。驚いたことにこの再活性化したX染色体上でXIST RNAの局在が認められた。さらにこの雑種細胞をA9細胞と融合してEC細胞様の未分化状態を失わせるとXIST RNAの局在性が消失した。しかしこの再活性化したX染色体をmicro cell融合法でHeLaへ移入すると再びRNAの局在が認められた。以上の観察から、XIST RNAの染色体への局在には、(i)分化した体細胞に存在する種特異性のあるトランス因子と、(ii)ECなど未分化細胞に特異的で種特異性のない(低い)因子の2種類が、最低限、必要であると考えられる。最近、XIST RNAの安定性が発生段階に応じて変化することが別のグループによって明らかにされており、今回明らかになった2つの因子との組み合わせによって不活性化の開始と維持を合理的に説明できると考えられる為、この因子の存在の証明を急いでいる。また、因子(i)の座乗する染色体を決定するためヒト染色体の上記雑種細胞への移入実験を行い、第9番染色体を除く全ての染色体の移入に成功した。
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