全能性であった受精卵は、発生過程で分化の全能性を失いながら、徐々にその分化運命を決定していく。しかし、近年クローン動物の誕生によって、分化した細胞でも核移植によって再び全能性を獲得することが明らかになり、細胞の全能性の分子基盤の解読が重要課題となってきた。本研究では、再生能力の高いプラナリアが、体細胞でありながら全能性をもつ新生細胞によって支えられていることに着目し、新生細胞の分子基盤から全能性細胞の分子基盤に迫ることを行った。新生細胞には、核放出物という生殖顆粒と良く似た独特の細胞質構造があり、この構造成分を明らかにすることから新生細胞の分子基盤解明の糸口とすることにした。今回、プラナリアから12種のRNAヘリカーゼ遺伝子を単離し、そのうちマウスのPL10ヘリカーゼに構造的に最も類似しているvasaファミリーに属する1種(Djvlg-A)がプラナリアの生殖細胞と新生細胞らしき幹細胞に共通に発現していることを見出し、再生過程での発現パターンからも新生細胞の核放出物の構成成分であることが示唆され、分化全能性をもつ細胞の分子基盤を担っていることが期待された。また、PL10遺伝子が、マウスの全能性細胞でもニワトリの胚盤葉細胞でも高発現しているRNAヘリカーゼ遺伝子であることを見出した。これら一連の結果は、Djvlg-A/PL10遺伝子群が細胞の分化全能性の分子基盤の一翼を担っている可能性を示唆しており、現在、遺伝子操作によってこれらの遺伝子群の分化全能性維持に果たす機能解析を行っている。
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