クラミドモナスの鞭毛軸糸には内腕に8種類、外腕に3種類のダイニン重鎖が存在することが知られている。多様な分子種の運動特性と鞭毛の屈曲運動との関連を明らかにするため、ダイニンの1分子蛍光運動アッセイ法の確立を試みた。対象として内腕の単頭ダイニンCに注目し、連続歩行性能(processivility)の直接検定と、微小管と相互作用して力を出している時間の割合(duty ratio)の直接測定を行った。まず、ダイニンCに蛍光色素テトラメチルローダミンを1対1の割合で結合させ、蛍光色素Cy5で標識した微小管と相互作用させた。蛍光色素による修飾がダイニンの運動活性に影響を与えないことを、通常のグライディングアッセイ法(ダイニンをガラス基板に吸着させて微小管の運動を観察する方法)で確認した。ダイニン分子の密度が充分に高い場合、微小管は8μm/sで滑り運動した。1分子のダイニンが相互作用する低密度(1個/μm^2)ではピボッティング運動が観察されるようになり、滑り速度も0.7μm/sに減少した。次に、微小管をガラスに吸着させ、蛍光標識したダイニンCとATPを加えて1分子蛍光観察したところ、1分子(または2分子)のダイニンCが微小管を滑り運動する様子を捉えることに成功した。滑り速度は0.9μm/sであり、グライディングアッセイの結果と良く一致していた。ダイニン1分子の滑り速度が最大速度の11%にとどまっていることは、キネシンの場合は密度によらず滑り速度が一定であるのと対照的である。これは、ダイニンのduty ratioが僅か11%であるとすると説明がつく。
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