HDLは抗動脈硬化作用を有するリポ蛋白質で、末梢組織に蓄積した過剰のコレステロールを引き抜き、肝臓へ輸送して処理・排泄する機構(コレステロール逆転送系)に重要な役割を担っている。HDLが引き抜いたコレステロールの大部分は肝臓に取り込まれ代謝される。最近Scavenger Receptor type B-I(SR一BI)と呼ばれる受容体がHDL受容体として生理的に機能していることが報告された。しかし、HDLからコレステロールエステルという非常に疎水性の高い物質をどのように選択的に細胞内に取り込むのか、また形質膜の内側に取り込んだコレステロールエステルを如何にしてさらに細胞内へと輸送するのかなど、その分子機構に関しては何一つ解明されていない。我々は、アフィニティカラム法によりラット肝臓からSR-BIの細胞質ドメインと特異的に結合する分子量70kDaの新規蛋白質(p70)を世界で初めて同定・クローニングすることに成功した。p70には、蛋白質-蛋白質間相互作用に関与するといわれるPDZドメインと呼ばれる構造が4個存在していた。このことからp70はSR-BI分子のクラスタリング、或いはSR-BIと他の肝細胞内の蛋白質との結合を媒介している可能性が考えられた。また、p70は肝細胞内において、SR一BIを介してHDLから取り込まれたコレステロールエステルのその後の細胞内動態を決定する上で重要な役割を持つことが明らかになってきた。p70の4つのPDZドメインのうち2つがSR一BIとの結合に関与しているが、残りの2つは細胞内の他の蛋白質と相互作用をしていると考えられる。
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