【目的】我々は、ラットに一酸化窒素合成阻害薬(Nω-nitro-L-arginine methyl ester、.L-NAME)を投与すると3日後に心血管組織の炎症性変化[単球浸潤、monocytechemoattractantprotein-1(MCP-1) 産生増加]が生じ、4週以降に再構築(冠動脈中膜肥厚、線維化)が生じることを報告した。MCP-1は単球浸潤を特異的に制御するケモカインであるが、このモデルの心血管病変の成立にどのような役割を果たすかは不明である。本研究では、一酸化窒素合成阻害によって生じる心血管病変の発生機序におけるMCP-1の役割をMCP-1に対するモノクローナル中和抗体を用いて明らかにした。【方法】雄WKYラットを対照群(無治療群)、L-NAME(100mg/kg per day)+lgG投与群、L-NAME+MCP-1中和抗体(2mg/kg per day)投与群に分けた。【結果】このモデルにおけるMCP-1発現部位は、in situ hybridization法により冠動脈内皮細胞、炎症細胞であり、免疫染色では、血管平滑筋にも免疫活性が認められた。MCP-1中和抗体同時投与によりL-NAME投与3日目の炎症性変化(心臓組織片内のED-1 陽性細胞数)、および増殖性変化(PCNA陽性細胞数)はほぼ完全に抑制された。MCP-1 中和抗体は、L-NAME投与4週後における冠血管中膜肥厚を防止したが、線維化(血管周囲および間質)には影響しなかった。線維化の成因に中心的な役割を果たすTGF-β1や、l型コラーゲンの遺伝子発現の増加にも影響しなかった。【総括】一酸化窒素合成阻害後早期に生じる心血管組織の炎症性増殖性病変の成立にMCP-1が中心的役割を果たすことが明らかとなった。また、MCP-1は、冠血管中膜肥厚の成立に関与するが、線維化には影響しないことも示された。
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