マクロファージの細胞表面に存在するスカベンジャーリセプターは、リポ蛋白質などの代謝に関与する分子として、動脈硬化との関連で注目されている。リガンドの特徴は、陰性荷電を適当な配置にもつ巨大分子であることが知られている。上皮性の癌細胞が産生するムチンは、シアル酸や硫酸基に富み、リガンドになりうる可能性が高いと考えられた。ヒト単球由来細胞株THP-1は、TPAで処理することによりスカベンジャーリセプターが誘導されることが知られている。TPA処理したTHP-1細胞をヒト腸がん細胞株LS180の産生するムチンや羊、牛顎下腺ムチンの存在下で培養後、培養上清のIL-1やTNFをELISAで測定すると、これらのサイトカインの著しい分泌亢進が見られた。これらのムチンをシアリダーゼ処理した場合、その活性は消失することから、シアル酸を含む構造が認識されていることがわかった。標識したムチンの同細胞への結合においても。フコイダン、ポリイノシン酸などでは阻害されるが、ポリウリジル酸では阻害されず、従来、報告されているスカベンジャーリセプターの特徴と一致した、また、リコンビナントのリセプターをCOS7細胞に発現し、同様の結合実験を行ったところ、同様の結果を得た。また、LS180細胞では細胞表層にもムチンが存在するが、リセプターを発現しているCOS7細胞への細胞接着も観察され、その接着は上記のリガンドで阻害された。これらの結果は、上皮性癌細胞の分泌するムチンあるいは細胞表層にムチンをもつ癌細胞自体がマクロファージ上のスカベンジャーリセプターに結合し、サイトカインの分泌を亢進するものと考えられる。癌細胞の近傍に浸潤したマクロファージはムチンにより活性化され、分泌されるサイトカインにより血管新生などを促進し、癌細胞に有利な方向に働くものと考えられる。
|