造血系幹細胞は、アポトーシス耐性と自己複製能を持つと想定されている。その維持には、サイトカインなどの外的因子が関与するが、これらの多くの因子は増殖刺激作用を有するため、いかに造血系幹細胞がその特性を維持するのかは不明な点が多い。我々はこれまで、線虫のCES2アポトーシス制御遺伝子のヒト相同遺伝子の研究を行なってきた。そのなかで、TEF遺伝子が造血系細胞で発現され、IL-3依存性B前駆細胞株においてTEFの強制発現により、IL-3存在下では細胞周期をG0/G1期で停止させる一方、IL-3非存在下での細胞死が抑制されることから、TEF遺伝子が造血幹細胞の維持に関わっている可能性を検討してきた。このうち、アポトーシス抑制機序は、TEF遺伝子と同様のDNA結合特異性を持つt(17;19)ALL由来E2A-HLF融合遺伝子の細胞死抑制機序と同様であると推測される。一方、細胞周期抑制の機序として、TEFの発現によりIL-3 receptorβ鎖の発現が著しく抑制されるために、IL-3刺激によるシグナルが細胞に入らなくなることを明らかにした。さらに、E2A-HLF融合遺伝子の細胞死抑制作用の下流遺伝子としてZinc-Finger型転写因子であるSlug遺伝子を同定した。このSlugは、IL-3依存性B前駆細胞株のIL-3非存在下での細胞死を抑制した。Slugは、線虫のCES2遺伝子の下流遺伝子として最近クローニングされたCES1と高い相同性を有し、造血系幹細胞のアポトーシス制御が、線虫からヒトまで生物種を越えて共有された転写システムによることをさらに強く裏付けるものである。現在、TEFとSlug及びそれらの関連遺伝子が造血系幹細胞の維持に関わる転写因子であるとの観点に立ち、分化の制御機構とも関連させて解析を進めている。
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