植物細胞の分化や形態構築を研究において、気孔を形成する孔辺細胞はすぐれたモデルである。本研究課題では、シロイヌナズナ気孔形態異常変異株を単離してその表現型の解析を行うこと、原因遺伝子を単離してその働きを分子レベルで解析することを目的とした。数種類の変異株の単離に成功したが、今年度は特にshabondama4と名付けた変異株に注目して研究を進めた。shabondama4変異体では正常な気孔の代わりに、丸い一個の細胞や、楕円形の細胞、そしてC字型の細胞が生じ、これらの細胞中には核が2個検出された。孔辺細胞の向きが揃う花茎を用いた解析の結果、これら異常細胞では分裂面の形成が不完全であることが示された。このことよりshabondama4は孔辺細胞の前駆体である孔辺母細胞の分裂、特に細胞板形成に関する変異体であることが考えられた。さらに原因遺伝子座のマッピングと遺伝子の同定を試み、2番染色体下部に存在する遺伝子内にアミノ酸置換を生じる変異を見いだした。この原因遺伝子は632アミノ酸をコードしており、他の生物種においても類似の配列を持つものは見いだされていない。構造的にはセリン含量が高く、また親水性のタンパク質であった。また、核移行シグナルの存在が見いだされ、核内に局在することが予測された。 植物細胞の分裂において、核の分離後細胞板形成が行われ細胞分裂が進行していく。shabondama4変異体の表現型とその遺伝子産物の特徴を考えあわせると、shabondama4遺伝子の機能として、核分離と細胞板形成との中継のような働きをしていることが事が予想された。shabondama4遺伝子は植物のみに存在する可能性が高いため、植物に特有な細胞板形成の開始の調節に関与する特異な因子であることが考えられる。今回、気孔に着目して研究を進めた結果、植物に特有な現象で働く特異な遺伝子を同定に成功するという成果をあげることができた。
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