研究概要 |
超流動ヘリウムー3は,いわゆる異方的BCS状態にあり,境界散乱の効果が大きい.この問題を定量的に取り扱うために,準古典的グリーン関数の境界条件を調べ,鏡映的散乱から散漫的散乱までを統一的に扱えるランダムS行列法を開発した.これらの方法を,境界効果が典型的に表れる超流動ヘリウムー3薄膜系に適用し,A-B転移,超流動密度,スピン動力学等に適用し実験と定量的比較が可能な結果を導いた. A-B転移については,薄膜境界の粗さによる散漫散乱が大きいほどB-相の存在領域が広くなることを示した.この結果は、従来のGinzburg-Landau理論を用いた理論の結果と定性的に一致しているが、大阪市大グループによる実験とは一致していない。引き続いて、境界に付着して固体状態にある^3He原子のスピンによる磁気散乱の効果を調べている。 また,薄膜の超流動密度については,膜厚の薄い場合はすでに報告されている第3音波の測定による実験結果と一致する結果が得られたが、膜厚の厚い場合は温度依存性が完全には一致していない。実験は継続中でありその結果を見守りたい。 薄膜中のヘリウムは境界効果のために、バルク状態とは大幅に異なった新しい超流動状態にある。スピン動力学を調べると、NMRの共鳴振動数はバルク状態とは異なりシフトしている。そのシフトの、温度依存性、膜厚依存性を計算した。
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