研究概要 |
従来,アルゴリズム理論の分野ではアルゴリズムの漸近的振舞いに関心が集中し過ぎ,工学の基本をおろそかにしていた傾向がある.本研究ではアルゴリズム工学の立場に立って,現実の問題規模を固定して,とにかく解を求めようとするものである.具体的には,2つの問題に焦点を絞って研究を進めた. (1) 最適網点形状設計問題 オフセット印刷では明るさの階調を実現する場合,それぞれの明るさに応じた最適な網点の形状(インクパターン)を設計しておく必要がある.網点形状の設計は,印刷機械製造メーカにとって重大関心事であるが,緊密な数学モデルが実現できていないこともあり,ヒューリスティックな手法に頼っているのが現状である.本研究ではこの問題を計算幾何学の問題として定式化し,離散幾何学の分野で精力的に研究されてきた円板詰め込み問題に対する様々な方法を用いて,解の性能を保証する近似アルゴリズムを得ることに成功した.一部プログラム化も行ったが,本格的な実験は次年度に行う. (2) 集合切り出し及びクラスタリングとその利用 巨大なデータ集合から目的に応じた部分集合を切り出すためのクラスタリング技術は,現在の情報社会において不可欠な操作である.計算理論問題としては,グラフの最大クリーク問題などが典型的なデータ切り出し問題であるが,本研究では,より実用に即した評価基準での切り出し,分割やクラスタリングを扱うことを目的としている.従来多く見られた発見的手法とは一味違って,計算幾何学と組合わせ最適化の分野で開発された技術,具体的には,動的計画法,高速行列探索法,枝刈り探索法,プロービングなどの手法を用いて,従来は最適化は不可能であると思われていた問題に取り組んでいる.具体的な実験はまだ始まっていないが,概略計画の策定までは完了している.
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