研究概要 |
分散システムは自律的に動作する多数のエージェント(計算機、プロセス、車、ロボットなど)から構成されている。柔軟性や拡張性を重視して、集中管理のための要素や大域的な同期機構を採用せず、各エージェントは、非同期的に、与えられた分散アルゴリズムを用いて、初期情報と限られた近隣のエージェントとの情報交換から得られた局所情報だけに基づいてその振舞を決定する。分散アルゴリズム設計の困難さは、まず局所情報だけを入力として、大域的整合性のある決定を求める所にある。さらにシステム構成の動的変化に対する適応性や、エージェントの故障に対する耐性などが重視され、設計をより複雑で困難にしている。そして、なによりこれらの話題はいずれも静的な問題を集中型計算機システム上で解決する方法を議論するための従来のアルゴリズム理論の枠外に放置されている。 様々な分野に現れる広域分散システムを統一的に論ずるためのアルゴリズム工学の枠組を提示し、それら広域分散システムに共通に現れる問題を解決するための分散アルゴリズム工学を組織的に展開することが本研究の最終的な目的である。具体的には、本年度は特に以下の二つの話題に焦点を絞り検討を進め、業績欄に示すような成果を得た。 1. 自律的に変化するデータを扱う動的問題を検討した(文献1,2,5)。相互排除問題や合意問題など普遍的な分散問題が含まれる。 2. アルゴリズム工学の観点から、アルゴリズム工学のケーススタディとして、具体的なシステムに望まれる分散アルゴリズムを設計した(文献3,4,6)。実際に並列化コンパイラで用いられることを念頭においたマルチプロセッサスケジューリングアルゴリズムの設計や,耐故障性を重視したアルゴリズムの設計が含まれる。
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