今年度も前年度に引続き、平面上の幾何的巡回セールスマン問題(TSP)に対するAroraの多項式時間近似スキームの実装について多角的に検討した。まず、Aroraのスキームの実装を完成し、忠実な実装では、従来の局所探索型のヒューリスティック解法と比較して、著しく劣る結果しか得られないことを確認した。これを打開する方法として、様々なアプローチを試みたが、そのなかで特に、(1)TSPから閉路被覆問題への緩和と、(2)枠-OPTと名付けた新しい局所改善ヒューリスティックによる後処理が有効であることを見い出した。(1)においては、Aroraタイプの動的計画法がTSPそのものよりも閉路被覆問題に対して著しく効率的に実装できること、またその後の局所改善を行なう上で複数の閉路を持つ初期解はむしろ有利であることにもとづいている。オイラーツア最適化の考えに基づいた、閉路結合のヒューリスティックスと組み合わせることにより、O(nlogn)で良質な初期解を生成することができる。(2)は、ある固定した領域において現在の巡回路のその領域への出入りの仕方を変えない範囲で、巡回路の長さを最適化するものであり、適当な枠分割の各枠について適用することにより、局所的な構造が極めて良質な巡回路を生成することができる。その他、関連した幾何的およびグラフ的最適化問題についての研究を行なった。
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